加能蟹 アメリカの蟹

 9月には5年ぶりの石川県人会連合会の全国大会が金沢で開催され、10月下旬のいしかわ県人祭in東京が済んで、11月上旬から蟹の季節になった。石川県の魚屋の店先に加能蟹と呼ばれるズワイ蟹が溢れるシーズンの到来だ。蟹の種類はさまざまだが、私は食べるなら子供の頃から親しんできた香箱蟹を含むズワイ蟹が一番と固く信じている。そんな私も、この季節になると、ワシントン勤務時代、ズワイ蟹の代わりを務めてくれたチェサピーク湾のブルークラブの味をついつい思い出す。

 このワシントンの蟹にも漁期はあったと思うが、よく覚えていない。ワシントン郊外には「ダンシング・クラブ」(Dancing ClubではなくてDancing Crab)なる蟹料理屋があって、加熱したブルー・クラブを食べさせてくれていた。唐辛子の粉のようなチリをまぶして蒸したものらしい。まぶしてあるチリも赤いが、蟹そのものもブルークラブとは言いながら、加熱されて赤くなっている。

 この蟹のカラを木槌で叩いて砕き、フォークで中身を出して食べるが、蟹ニクよりも、甲羅の中のミソ類が好まれていた。木槌でたたき割るから、蟹のカラがあたりに飛び散るが、それは店も客も承知のこと。テーブルには茶色いクラフト紙のような紙が敷きつめられている。客も、同じような紙で作ったエプロンをかけて蟹と格闘する。チリが、蟹に独特の風味を加えて、なかなかだ。食事が済むと、蟹のカラは全てテーブルの上のクラフト紙にくるみこまれて持ち去られる。

 この豪快なブルークラブ料理は、味もさることながら、豪快な食べ方がとても楽しく、客に強い印象を与える。でも、あの時からすでに30年余り。私が訪れた店はまだ営業しているのかいささか気にはなる。このようにアメリカの楽しい蟹は忘れがたいが、やはり、日本海で獲れた美味しい蟹はさらに嬉しい。しかし、今年は、まだ口にしていないのが残念だ。(2016年11月20日記)

石川県人 心の旅 by 石田寛人

石川県人会発行の月刊ニューズレター「石川県人会の絆」に2016年1月の創刊から連載中の記事をまとめたサイトです。

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