七草粥とトントン囃子

 謹賀新年。石川県人会の活動を極めて活発に展開することができた昨年に引き続き、今年はさらに大きく羽ばたきたいと心を新たにしている。

 私は、毎年、年賀状に「漢詩」または「漢詩もどきのもの」を書き付けている。私の父は五言絶句の詩をかなり残したので、長年、その中から正月にふさわしいものを選んで賀状に書いてきたが、それも尽きそうになったたので、自分で作ることにしたのである。我が愚作は、一応、韻を踏み、各種の法則を守って平仄を合わせてはいるが、とても「漢詩」と呼べるようなしろものではない。最近はAI(人工知能)によって漢詩を作る試みがあるようで、私のような詩心の無い者は、いっそのこと、そちらに委ねた方がよいようでもあるが、これについては、稿を改めて論じたい。

 さて、新年に関して、今ひとつ。私は、年々、「七草粥」の儀式に参加している。前田利祐石川県人会名誉会長が尾山神社において主催される七草粥の行事で、参加者の末席に連なってきたのである。1月7日早朝の尾山神社の拝殿。大きくて平らな桶の上に大きな俎板が置かれる。その上で、前田家の台所方を承ってきた大友楼の大友佐俊さんが、裃を着用して、春の七草「せり・なずな・ごぎょう・はこべ・ほとけのざ・すずな・すずしろ」を順次取り出し、「火箸・火吹き竹・せんば・庖丁・薪・しゃもじ・料理箸」などの七種類の台所用具で、七草囃子を謡いながらトントントントン大きな音を出して叩くのである。なお、用いられる台所用具は、この七つに限るわけではないとのことで、七草囃子は、「なんなん七草なずな 唐土の鳥が 日本の土地に 渡らぬ先に かっちゃわして ボートボト かっちゃわして ボートボト」というもの。疫病をもたらすおそれのある鳥が外国から来ないように音を立てて追い払うという趣旨であろう。先人も鳥インフルエンザには気をつけてきたのかもしれない。この囃子は、それぞれの七草を七つの道具で叩く毎に謡われるから、合計49回繰り返される。最後の「すずな(蕪)」「すずしろ(大根)」になると、切れ端が飛び散ることもあるが、大友さんは平然と叩き続ける。この神事が終わると、直会(なおらい)として参列者一同は金渓閣に下り、健康を保つとされる七草粥を頂くのであるが、その効用は一年間のみとか。そこで、私は、毎年、7日の朝にはこの儀式に参列し、七草粥を頂いてきた。

 昨年から、この行事は尾山神社の主催となり、大友さんが七草を叩く代わりに、巫女さんが舞を奉納する形式に替わった。今年は、巫女の舞に加えて、昨年の県人会新年会で狂言を披露して新春を寿いで頂いた三宅藤九郎さん和泉淳子さん姉妹が裃姿で狂言舞を奉納された。儀式は厳粛である。お二人のお声で、背筋がピン伸びたように感じた。

 なお、大友さんの手になる七草の行事は、毎年「フードピア金沢」の催事の一つとなっており、今年は2月11日(土)の正午から「七草行事と七草料理」と題して大友楼で行われる。そこの三和土(たたき)に響く七草トントンの音と声は、私も何度か聴いたが、尾山神社の神前で拝聴するのと同じく、前田利家公の「みな健康に留意して今年も仕事に励むように」というお声のようにも思える。石川県人の皆様の御健康を切に祈りたい。(2017年1月20日記)

石川県人 心の旅 by 石田寛人

石川県人会発行の月刊ニューズレター「石川県人会の絆」に2016年1月の創刊から連載中の記事をまとめたサイトです。

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