圓生師匠の寝床

 11月は、八丈島訪問に台湾訪問と、石川県人会の飛行機の旅が続く。無事にこれらの旅行が完了するよう、私も力を尽くしたい。

 飛行機は、小松や金沢と東京との往復に、私も多用している。機内では、イヤホンで落語を聴く。私は落語に不案内だったが、JALとANAのお蔭で多くの落語家の名前を覚えた。今や、機内だけではなく自宅でもiPadやスマホで落語に耳を傾けている。

 私の好きな演目は「寝床」。六代目三遊亭圓生師匠の「寝床」が絶品だ。人物描写が素晴らしい。大家さんは店子達に自分が語る義太夫を強制的に聞かせるが、虎や河馬のうなり声のような義太夫を無理に聴かされる人達は全くの被害者で、病気になって寝込むほど。で、この日もスダレの中で語る大家さんの義太夫を、酒食をもてなされながら聴くうちに、店子一同ぐっすり寝込んでしまい、スダレを上げた家さんは怒り心頭。ただ一人寝ないで泣いていた丁稚のサダ吉のみが大家さんの義太夫を理解して感極まっていたと評価したのもつかの間、大家さんが義太夫を語った床(ゆか)は、実は自分のいつも寝床にしている場所であり、大家さんが床にしたため眠れないので困って泣いていたというのがオチである。

 私がこの落語を聴くのは、面白いからだけではない。

 実は、私の小松の旧宅は、間口と奥行きの比率が1対8を超えて、実に細長く、鰻の寝床と呼ぶのにピッタリである。前にも述べたように、私はこの鰻の寝床を室生犀星の雅号「魚眠洞」をもじって「鰻眠洞」と名付け、小松ではいつもここで寝ている。そこで、就寝前に、この落語を思い出し、自分の好きな芝居のセリフや昔話やつまらない説教を、子供達や後輩に無理に聴かせて、大家さんの二の舞を踏むようなことはすまいと気持ちを新たにするためでもある。しかし、これまで、被害者が出ていないという保証はない。ともかく、今後とも、圓生師匠の「寝床」を聴き続け、被害を抑えていきたいと思っている。(2017年11月月19日記)

石川県人 心の旅 by 石田寛人

石川県人会発行の月刊ニューズレター「石川県人会の絆」に2016年1月の創刊から連載中の記事をまとめたサイトです。

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