百人一首の絵札

 新年おめでとうございます。本年が石川県人会会員の皆様と石川県にとって良き年となることを祈念しつつ、新年総会をはじめ県人会の行事に力を尽くしたいと存じます。

 さて、正月の室内遊技といえば「百人一首」である。

 まずは「かるた取り」。二人で対戦する「競技かるた」は、近江神宮の大会がテレビでも紹介されるが、この競技は我が石川県でも盛んで、小松市出身の方が女性トップのクイーン位に迫る実績を残しておられる。

 競技かるたは、力量差がはっきり出るので、私の子供のころの正月は、ゆるやかなルールで複数の人が対戦する「源平」や、バラバラに置いた取札を何人かで囲んで取っていく「ちらし」などが一般的だった。

 かるた取りではなくて、読札のみを使う遊びは、短歌を覚える必要がないから、誰もが楽しめる。その代表が「坊主めくり」。天智天皇以下10枚の天皇札(元良親王を含めて男性8枚、持統天皇と式子内親王の女性2枚)、58枚の一般男性札、19枚の一般女性札、13枚の坊主札の計100枚を裏返しにして、ひと山か、ふた山に重ね、順にめくって自分の手札にしていく。「天皇札は特別のパワー、男性札で一枚取り、女性札で総取り、坊主札ではきだし」のルールが一般的なようだが、ローカルルールを自由につくりうる。

 読札の人物絵も楽しい。天皇と親王は、シマダイ即ち繧繝縁(うんげんべり)の畳の上。女性札(ヒメサン)と坊主札(蝉丸だけは通例冠り物をしており、坊主外とされることもあるようだ)はすぐ分かるが、男性札は種類が多い。黒い衣冠束帯姿の「クロサン」。冠直衣姿の「ツネサン」(平常着の人という意味か。着衣は色物で文様がある)。武官の装束の「ヤカサン」。これには巻纓冠の耳の辺りに放射状の「老懸(おいかけ)」を付けただけの「ミミヤカ」と、さらに矢を担ぎ弓を持つ「ホンヤカ」の二種類。立烏帽子姿の「チャワンサン」、風折烏帽子姿の「デコサン」または「マメサン」、そして烏帽子の長い「ピンサン」。その違いを利用する遊びもいろいろある。これらの呼称は子供の頃に小松で曾祖母から習ったが、土地によって種々の言い伝えがあろうから、各地での呼称や遊び方を、ぜひご教示いただきたい。私の思うところも機会を見つけて詳論したい。

 と、ここまで書いたところで、孫のために買った自宅の百人一首を拡げてみて、驚いた。元良親王がシマダイにのっておられない。ヒメサンの中の赤染衛門と待賢門院堀河がシマダイと覚しきものにのっている。デコサンとピンサンの区別がつきにくい。何ということか。いずれ、別の札を買って、現下の状況を調べたいという思いに駆られた。

 そんなことをしていると、炬燵に入って遊んだ「坊主めくり」の思い出が胸中に蘇ってきたが、その炬燵自体が我が家にも無いのには、いささかの淋しさを禁じ得ない。 (2018年1月18日記)

石川県人 心の旅 by 石田寛人

石川県人会発行の月刊ニューズレター「石川県人会の絆」に2016年1月の創刊から連載中の記事をまとめたサイトです。

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