ラオスとカンボジア

 思えば、今を去ること約3年半前の2019年11月25日から12月1日まで、我が石川県人会がチェコとオーストリアを訪れたのは、欧州でコロナ禍が勃発する寸前で、少し遅れれば、旅行を断念せざるを得ない状況下にあった。かの旅行は、多くの思い出と高村秀雄さんの奥様がプラハのマサリク駅で駅ピアノを弾かれた音を残して、つつがなく帰国できたことは本当に有り難かったと思っている。高村さんがその後鬼籍に入られたので、思いは一入である。

 あの旅行のすぐあとに、私は二度ばかり急ぎの用務で東南アジアを旅したが、直後のコロナ襲来のため、外国には行けず、国内で巣籠もりの日が多くなったのは誰もが同じである。しかし、コロナ禍もようやく下火となって、外国に行きやすくなり、海外に行く用務も生じてきた。私は、コロナ下の3年で、小松・金沢と東京の間は往復を重ねてきたものの、外国まで飛行機で長駆するのが億劫になり、体力の衰えが加速した感じもするが、そうとばかりも言っておられず、2月半ばと3月始めにラオスとカンボジアにそれぞれ出かけてきた。いずれも、インドシナ三国のうちで、時差は2時間。用務は本田財団のYES奨励賞(Young Engineer and Scientist Award)という大学生の奨学を目的とした奨励賞を贈呈することであった。

 ラオスへは、羽田や成田からの直行便がないので、タイのバンコク経由で首都ビエンチャンに飛んだ。所要時間は、往路が乗換時間を含めて11時間10分、復路は8時間25分で、往復の相違は乗換時間の差と偏西風の影響である。ラオスは、ASEAN諸国の中では唯一、海に面していない内陸国で、総人口は約740万人。とりたてて有名な観光資源があるわけではないが、優しい性格の人が多く、自然が豊かでアジアの桃源郷と言われている。仏教国でビエンチャンの町ではお坊さんの姿が多く見られる。会場のラオス日本センターで学生達にYES奨励賞を贈呈したあと、その中庭でラオス国立大学の先生方と長く懇談したが、先生方は実に謙虚でありながら、ラオスの研究教育環境の改善にとても熱心で、熱い語り合いが続き、本当にすばらしい時間を過ごした。

 カンボジアへは、全日空の東京・プノンペン直行便が運行を休止していたため、ラオス同様、タイのバンコク経由となった。所要時間は乗換時間を含めて往路10時間25分、復路10時間45分で、偏西風にもかかわらず、復路が往路より時間がかかったのは、バンコクで長く乗継便を待ったためである。この国は人口2020年で約1600万人。かつての激しい内戦で知識人をはじめ多くの人が殺害されて人口が大幅に減るという厳しい反知性時代を経験しているが、今やそれを懸命に克服しつつある。カンボジアは何と言っても、アンコールワットという世界的に知られた遺跡があり、それが大勢の人を呼んでいる。コロナの影響で観光客は減ったようだが、現在、回復の過程にある。ラオスと同様、学生達に奨励賞を贈り、関係者と稔りある意見交換を行った。

 ラオス、カンボジア両国はいずれも、教育研究の体制を整えて、国力の充実を図りつつあり、若い学生達からもその意気込みが感じられた。我が国でも、若い学生達が大学院の修士課程、博士課程にさらに多く進学して、高度の専門知識を備えた若者がどんどん増えていくことを期待したい。石川県人会では、今年の年末にでもベトナム石川県人会と交流するためにインドシナの国々を訪問する機運が盛上がってきている。実現すれば、これらの国はさらに近い存在になりそうだ。(2023年4月15日記)

石川県人 心の旅 by 石田寛人

石川県人会発行の月刊ニューズレター「石川県人会の絆」に2016年1月の創刊から連載中の記事をまとめたサイトです。

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