先月26日夕刻、松本楼での会合に出席するため、日比谷公園に行った。若干時間に余裕があったので、水中に鶴の像が立つ雲形池の廻りのベンチに腰掛けた。明るかった西の空の色がどんどん薄くなっていく。日は短くなった。池にはトンボが5、6匹飛んでいた。赤トンボかと思ったが、小さい塩辛トンボだった。これで私はすぐに「秋津らはここに飛び来て夏寒き高嶺の雪にこごえ死にけり」という短歌を思い出した。秋津はトンボの古称。眼前の景色とは全く違うが、トンボを見ると、四十年以上前に秘書官事務取扱としてお仕えした熊谷太三郎先生のこの一首が、いつも脳裡に浮かぶ。三十年ほど前、私はこの一首から想を得て、加賀騒動の顛末を「秋津見恋之手鏡(あきづにみる・こいのてかがみ)」という文楽台本を書いて、文楽なにわ賞に応募した。作品自体は不出来だったが、思いがけなく佳作に入れて頂き、そのあとの「銘刀石切仏御前(めいとういしきり・ほとけのおんまえ)と「辰巳用水後日誉(たつみようすい・ごにちのほまれ)」と題する2編の歌舞伎本を書くステップとなった。そんな昔のことを思い浮かべつつ、夏は、厳しい暑さを残しながらも、天地の運行によって確実に過ぎて行っていることを実感した。
今年は、パリオリンピック・パラリンピックの夏、甲子園100年の夏だった。ひときわ暑かったが、パリや甲子園のアスリート達の活躍によって元気づけられた。
全国高校野球選手権大会、通称「夏の甲子園」とそれにつながる各都道府県の代表決定大会は、第106回目の今年は3441チーム(3715校)が参加したと報道された。去年より45チーム(25校)減少したという。チーム数と学校数が違うのは、複数の学校が連合でチームをつくって出場することがあるためだ。石川県大会は今年は44チームの出場で、昨年より1チーム増加した。しかし、かつては50チーム以上が出ていたから、長期的に見ればやはり減少傾向にはあるのだろう。今年の石川県では、連合チームはなかったが、2020年の特別大会は、金沢伏見・穴水・金沢辰巳丘・金沢向陽・宝達・加賀の6校が石川県の南北を縦断する連合チームで出場している。今年は、奥能登4市町の6校が単独出場して、震災復興に努める能登の活力を示した。穴水高校の主将が開会式の入場行進を先導し、石川県代表の小松大谷が強豪校に二度勝利してベスト16に進んだ今年の夏の甲子園は、県民県人に大きな力を与えた。結局、京都の京都国際が東東京の関東一高に勝って優勝したが、決勝戦はタイブレークに持ち込まれる好試合だった。
トーナメント形式で行われる高校野球の大きな大会は、優勝チームを除く全参加チームは、敗れて大会を終了する。しかし、沢山の敗戦には、それと同じ数の勝利がある。若い高校生とそれを後押しする大応援団は、勝って喜んで泣き、負けて涙を流す。それは、輝かしく忘れがたい人生の大きな一頁となるとともに、見る人に感動を与える。勝てばよし、負けたチームも応援団や関係者に温かく迎えられて「よくやった」と声を掛けられ、郷土に帰って拍手につつまれる。試合が接戦となって、一球一打で勝敗が決まるのは過酷のようではあるが、スポーツの勝ち負けはそのようなものとも思う。子供の頃、熱戦の高校野球を見ていた大人が、どちらも勝たせてやりたいと呻っていたことを思い出す。高校野球で対戦する両チームは、その勝敗にかかわらず、ウイン・ウインの関係にあると思っている。(2024年9月18日)
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