人間とAI

 新年おめでとうございます。昨年は、元旦に能登半島地震が発生し、九月に奥能登は豪雨による大きな被害を受けて、石川県民、石川県人にとって、大変な一年でありました。震災や豪雨災害によって命を失われた方々には、心から哀悼の誠を捧げ、被災によって未だ厳しい生活を強いられている方々には、衷心よりお見舞い申し上げます。石川県人会は、能登の皆様に心を寄せ、復興のお役に立ち続けたいと存じておりますところ、本年も、どうかよろしくお願い申し上げます。


 今年2025年には、2025年問題への対応が大きな課題となっている。団塊世代の方々の多くが後期高齢者となるなど人口の高齢化が顕著に進み、その影響が極めて大きくなって、それへの取り組みの強化が喫緊の重大事となっているのが、2025年問題であり、国を挙げて対応しなければならないが、2025年には、別の大きな課題も控えている。それは、このところの人工知能(AI)の急速な発展によって、AIが人間活動に極めて大きなインパクトを与える年になろうとしていることである。

 従来、AIが人間の頭脳に追いつくのは2045年頃とされていて、それはシンギュラーポイントと呼ばれてきた。しかし、ここのところのAIの進展は目覚ましく、そのポイントが時間の流れよりはるかに早く近づいてきていると言われるようになった。

 昨年のノーベル物理学賞は、現代AIの父ともいわれるジェフリー・ヒントン教授達、化学賞は、AIでたんぱく質の構想予測に成功し、世界最強の囲碁棋士に勝利した「アルファ碁」の開発者としても知られるデミス・ハサビス氏達が受賞した。これらの受賞は、まさに、科学技術の世界で、AIが世界的な焦点にあることを示すものだった。

 ヒントン教授達は、ニューラル・ネットワークの研究によって機械学習の基礎を確立し、「ディープ・ラーニング」などのモデル形成につなげられたが、2019年に、私が理事長を務める本田財団はヒントン教授に本田賞を贈呈した。その時、来日されたヒントン教授の贈呈式での記念講演は、「ディープ・ラーニング革命」というタイトルで、この技術の仕組みのお話であった。その時、私はAIの影響の大きさは強く認識したが、その恐ろしさへの対応に関する感覚はそれほど濃厚ではなかった。

 そして昨年。ノーベル賞を受けられたヒントン教授は、AIの脅威について強く警告され、多くの報道機関がそれを報じた。この報道から、人々は、AIの進歩の加速により、シンギュラー・ポイントの到来が近くなった感を深くしたように思われる。もちろん、AIにはAIとしての限界があり、人間から独立して、その能力が人間を超えることはないとの見解もある。AIが人間を追い越すかどうかはともかく、今や我々が欠かせなくなったスマホとパソコンにおけるように、AIは私たちの生活に入り込んでいる。スマホによってすっかり我々の身近になったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)は、我々の連絡通信手段と空間的存在意識を飛躍的に変革し、人々の政治的選択にも大きく影響を与えつつあるとされている。

 確かにスマホは魔法の鏡であり、その向こうには大きな世界が広がっていて、我々は世界とつながっている。その鏡は、躍動する世界像を提供してくれるであろうが、虚像もまた多く映し出す可能性がある。スマホの鏡が映し出して見せてくれるのは、世界像というより、自画像なのかもしれない。さらに、SNSが意図して悪用されるならば、それをキッチリ防ぐことで、我々の生活と世の秩序を守らなければならない。私達はこのスマホの効用と問題点をしっかり認識すべきである。今日、ヒントン教授の言われるAIの規制に関する議論は極めて重要になっている。

 2025年はAIの将来にしっかり思いを致して対応すべき年となろうが、県内の公立大学で教育にかかわる者としては、世界の赴くところはきっちり把握しながらも、どっしりと大地に立って、みだりに右往左往しない若者を世に送り出すよう努力したいと思っている。しかし、その前にまず私自身がそうならなければならないが、それは容易ではないようだ。(2025年1月17日記)

石川県人 心の旅 by 石田寛人

石川県人会発行の月刊ニューズレター「石川県人会の絆」に2016年1月の創刊から連載中の記事をまとめたサイトです。

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