金沢舞囃子「獅子」

 先月25日、全国石川県人会連合会の金沢大会を盛会裡に開催することができたのは、開催都市の金沢市、そして石川県の御当局の御尽力を賜り、各地県人会の関係者が一丸となって努力した結果であり、私としては、ただただ感謝申し上げるだけである。これを機会に石川県とそれぞれの県人会と県人の一層の発展を期してさらに結束を固めていきたい。

 さて、金沢大会の懇親会の幕は、金沢市の御配慮により、金沢素囃子「獅子」によって開けられた。この幕開けは、私は特別にありがたく、また、嬉しかった。

 時は、江戸時代の末期、弘化5年。江戸時代には、能の四座(観世・宝生・金春・金剛)一流(喜多)のうち、観世大夫のみが一世一代勧進能という極めて規模の大きい能の興行を行うことができ、江戸期を通じて数回この大規模な興行がを行なわれてきた。それに対して、金沢の前田家5代藩主綱紀公以来、加賀能登や北陸の人間が親しんできた宝生流の宗家、宝生大夫も、この年、この一世一代勧進能の挙行が許されたのである。この江戸期最後の一世一代勧進能は極めて盛大だったと伝えられるが、その最も重要な演目が中国の清涼山に文殊菩薩への浄土まで架かる石橋の前で獅子が勇壮な舞を披露する「石橋(しゃっきょう)」であった。この能興行のことは、長谷川一夫、田中絹代、岸惠子という文字通りトップの俳優さんたちが出演して「獅子の座」というタイトルで映画化されている。

 「石橋」は、歌舞伎に取り入れられて、親獅子が子獅子を鍛える伝説をも踏まえて「連獅子」となり、今も頻繁に上演されていて、平成21年には、金沢の歴史都市第1号認定記念の金沢城歌舞伎で、故中村勘三郎丈、中村勘九郎(当時勘太郎)丈、中村七之助丈達によって演じられ、大きな感動を呼んだのは記憶に新しい。

 今回演じられた金沢舞囃子の「獅子」は、この「石橋」や「連獅子」に連なるものであり、石川県と県人のさらなる発展を願う意味が込められていると受け止めた。参会者は、このすばらしい演奏によって、金沢の空気で呼吸していることを強く実感することができた。名演奏を披露された笛の藤舎眞衣(とうしゃ・まい)さん、小鼓の望月太満(もちづき・たま)さん、太鼓の望月太満衛(もちづき・たまえ)さんに心から御礼申し上げて、本稿を締めくくりたい。(2016年10月20日記)

石川県人 心の旅 by 石田寛人

石川県人会発行の月刊ニューズレター「石川県人会の絆」に2016年1月の創刊から連載中の記事をまとめたサイトです。

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