東京タワーと定式幕

 1月1日の能登半島地震では、亡くなられた方、負傷された方は数多く、また不自由な避難生活を余儀なくされている方々も大勢おられる。哀悼の意を表し、お見舞い申し上げる。早くこの地震禍が克服され、能登半島が力強く復興していくことを強く念ずるものである。加賀地方では、能登の支援とともに、自らの被害にも対処しなければならないが、来月の16日には、北陸新幹線の金沢・敦賀間が開業する。小松・加賀温泉・芦原温泉・福井・越前たけふ・敦賀の6駅に待望の新幹線がやってくる。そこで、2月5日の月曜日、北陸新幹線の延伸を広く報ずるとともに、能登半島地震からの復興を祈念して、夕刻から深夜まで、東京タワーを歌舞伎色に輝かせる企画が実施された。世界的照明デザイナーである石井幹子さんのデザインである。当日夕刻、私もタクシーで東京タワービルに駆け付けた。

 午後5時を回って辺りが暗くなった頃、宮橋勝栄小松市長と市川團十郎丈の令嬢ぼたんさんが点灯スイッチを押して東京タワーが輝き出した。私は、点灯式会場ではない東京タワービル玄関先に陣取り、点灯後すぐに表に出て、雪の降りしきる中、明るく力強く輝く歌舞伎色のタワーを写真に収めた。

 歌舞伎色とは、歌舞伎上演の際の引き幕すなわち定式幕(じょうしきまく)の色のことである。定式幕は3色を繰り返す縦縞で、色は左から①柿色・萌葱色・黒色、②柿色・黒色・萌葱色、③柿色・黒色・白色、の3種類ある。①は昔の森田座の幕、今は歌舞伎の本場ともいえる歌舞伎座の引き幕である。②は江戸期の市村座の幕で、建替閉館中の国立劇場で使われていた。③はかつての中村座のもの、今は、浅草公演等を行う平成中村座で使われる。①と②は、色の配列順が違うが、一見ほぼ同じような感じがする。①は、右から柿色を「ちゃ」、黒色を「く」、萌葱色は緑で「み」と覚えて、「ちゃくみ」の順序、②は、そうではない順と覚えればよいと聞かされた。③の中村座のものは、白が入るのですぐ区別がつく。

 この度の東京タワーの歌舞伎色は、①の配列順で、一定時間に右回りに回転していくようだったが、私は降りしきる雪の中、慌ただしくタワービルを出入りしていたので、回転する瞬間は見ていない。黒い色は光で表現できないので、代わりに「紫」の光が使われたが、これで十分に歌舞伎の雰囲気を醸し出し、歌舞伎座定式幕を強くアピールしていた。

 降る雪と歌舞伎色の光りで幻想的になった東京タワーは、遠く近くからこれを目にする人々に、北陸新幹線小松駅開業も間近なので、この色を楽しみに小松へ足をお運び頂きたいと呼び掛けているようだった。曳山子供歌舞伎が演じられるお旅祭り期間や、市川團十郎劇場「うらら」での歌舞伎上演時でなくても、駅近くの「みよっさ」で、実物の曳山等で歌舞伎の雰囲気を十分味わって頂けるし、舞台で子供達が稽古しているかもしれない。

 ところで、定式幕の3色は、東京の地下鉄で、歌舞伎座に直結する日比谷線東銀座駅と、国立劇場近くの半蔵門線半蔵門駅の壁面の一部に使われている。いずれも②の順序の色になっており、歌舞伎座の東銀座では、舞台の定式幕と地下鉄の壁で、色の順番が違っている。ただ、歌舞伎座地下の売店の自動販売機は舞台幕と同じ色順で、各種の販売グッズ類は、①と②が両方入り交じっている。私は③の中村座の引き幕も大好きだが、「柿・黒・萌葱」3色の魅力にも改めて感じ入ったのだった。(2024年2月18日) 

石川県人 心の旅 by 石田寛人

石川県人会発行の月刊ニューズレター「石川県人会の絆」に2016年1月の創刊から連載中の記事をまとめたサイトです。

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