2024.07.23 15:00ボイジャーの音楽 今月7日。笹の葉のそよぎで暑気を払いたいこの日、都知事選の投票を前日に済ませた私は、ガラにもなくクラシック演奏会場と楽屋で一日を過ごした。場所は墨田区のすみだトリフォニーホール。眼目の演奏曲は『ボイジャー楽章付き組曲「惑星」』、演奏はシズオ・Z・クワハラ氏指揮の新日本フィルハーモニー交響楽団、合唱は加藤洋朗氏が指揮する桐朋学園大学One Voice Kで、ソプラノが秋本悠希さん、ボイジャー楽章の作曲は清水研作新潟大学教授であった。それに、宇宙の語り部として極めて著名な的川泰宣JAXA名誉教授と天体観測の権威渡部潤一国立天文台上席教授が、惑星と宇宙について解説され、私は妻と朝から会場に駆け付けてこの七夕演奏会を裏表から満喫したのである。
2024.05.23 15:00義太夫勧進帳 3月30日。東京は台東区の浅草神社神楽殿において、公益社団法人石川県観光連盟の主催で、小松市と市内曳山8町が実行団体となって、北陸新幹線金沢以西延伸を記念し、能登半島地震からの復興を応援するため、「義太夫による勧進帳」が上演された。さらに、今月11日が中日の小松お旅祭りでは、材木町曳山の上で、この演目が浅草公演と同じメンバーによって演じられた。両方とも迫力満点の素晴らしい舞台であった。
2024.02.23 15:00東京タワーと定式幕 1月1日の能登半島地震では、亡くなられた方、負傷された方は数多く、また不自由な避難生活を余儀なくされている方々も大勢おられる。哀悼の意を表し、お見舞い申し上げる。早くこの地震禍が克服され、能登半島が力強く復興していくことを強く念ずるものである。加賀地方では、能登の支援とともに、自らの被害にも対処しなければならないが、来月の16日には、北陸新幹線の金沢・敦賀間が開業する。小松・加賀温泉・芦原温泉・福井・越前たけふ・敦賀の6駅に待望の新幹線がやってくる。そこで、2月5日の月曜日、北陸新幹線の延伸を広く報ずるとともに、能登半島地震からの復興を祈念して、夕刻から深夜まで、東京タワーを歌舞伎色に輝かせる企画が実施された。世界的照明デザイナーである石井幹子さんの...
2023.01.24 15:00見たい歌舞伎演目 新年おめでとうございます。コロナにはしっかり対応して、今年をすばらしい年にすべく微力を尽くしたいと存じます。どうかよろしくお願い申し上げます。 昨年の11月と12月、歌舞伎座で13代目市川團十郎白猿丈の襲名披露公演が行われた。それにちなんで、今回は歌舞伎の話をしたい。松の内の7日、日本経済新聞の「NIKKEIプラス1」に、「一度は見たい歌舞伎演目」のランキングが掲載された。選んだ専門家12人の中に、私の知人で子供歌舞伎を見るため小松にも来られたチェコのペトル・ホリー早稲田大学演劇博物館招聘研究員が加わっており、興味を惹かれた。 そのランキングの一位は「義経千本桜(よしつね・せんぼんざくら)」。この作品は「仮名手本忠臣蔵(かなでほん・ちゅうしんぐら)」...
2022.09.23 15:00壁掛の人物 一昨年7月本欄でご紹介した前田育徳会所蔵の「アエネアス物語図毛綴壁掛」は、関係の皆様のご支援を頂いていよいよ京都で本格修理が始まった。欧州で製作され、経路は不明ながらもいつしか前田家に伝わった縦3.2メートル、横2.6メートルのこのベルギー名門織物場製大型壁掛は、平成27年北陸新幹線金沢開業の際に石川県立美術館で開催された「加賀前田家百万石の名宝」展で多くの方にご覧頂いた。保存状態は良好ではあるが、何せ400年ほど前の製作のため、やはり修理が必要で、昨年からその調査を行ってきた。調査期間を含め4年にわたる修理が終われば、令和8年に前田育徳会創立百周年を記念して東京国立博物館にて開催を予定している展覧会の呼び物になると期待される。
2022.06.24 04:48笙の音 今月4日に行われた今年の封国祭と百万石まつりは、絶好の日和に恵まれ、多くの人が3年ぶりの大きな祭事を楽しんだ。我が石川県人会もこれに合わせて約70人が郷土訪問旅行を行い、河口洋徳事業委員長や本田ゆり子さんの御尽力で充実した時間を過ごすことができた。この日の朝、一行は尾山神社の拝殿に上り、加藤治樹宮司以下の神職による厳粛な儀式に参列した。私は桃色がかった淡い橙色の装束を付けた楽人達の笙の音にひときわ感慨を覚えた。笙の音は独特である。字にすると「フギャー」とでもなるのだろうか。この音から、神様の厳かさと神社の清々しさが、辺りの空間いっぱいに広がるように感じられる。 この笙の音を聴いて、佐竹本三十六歌仙絵巻の中の住吉大明神の御歌「夜や寒き 衣や薄き かたそ...
2022.05.25 01:09尾山神社金渓閣の本因坊戦 伝統ある囲碁本因坊戦挑戦手合の第1局は、この10日と11日に金沢尾山神社の金渓閣で行われた。タイトル保持者は本因坊文裕すなわち井山裕太名人で、挑戦者は一力遼棋聖。対局は総手数357手を数える大激戦で、井山裕太本因坊の半目勝ちであった。 この棋戦の主催は、毎日新聞社と日本棋院、関西棋院。毎日新聞社取締役常務大阪本社代表の丸山雅也氏、日本棋院の小林覚理事長(九段)、関西棋院の榊原史子常務理事(六段)が顔を揃えられた。立会は羽根直樹九段、記録係は鶴田和志六段と稲田陽五段、新聞解説は小県真樹九段、大盤解説は山城宏九段で聞き手は金沢のカルチャースクール石心席主佃優子さん、ネット中継「幽玄の間」の解説は高尾紳路九段で、聞き手は佃さんの妹さんの佃亜紀子六段。日本棋...
2022.04.23 15:00将棋名人戦と囲碁本因坊戦 前々回に報告した2月の将棋棋王戦挑戦手合第2局の金沢対局に続いて、将棋の名人戦タイトル挑戦手合七番勝負第2局が今月19日と20日に、囲碁では本因坊戦タイトル挑戦手合七番勝負第1局が5月10日と11日に、それぞれ金沢で行われる。 将棋の名人戦は、滝亭での対局。棋王戦の金沢での勝利のあと、結局3-1で五番勝負を制して棋王位を防衛した渡辺明名人が、順位戦A級一位の斎藤慎太郎八段の挑戦を受けており、第1局は渡辺名人が勝利した。2局目の金沢対局の2日前に、名人戦金沢招聘に尽力された佃優子さんの肝煎で記念の子供将棋や小規模人間将棋が行われる。 囲碁の本因坊戦の方は、井山裕太本因坊に対する挑戦者は一力遼新棋聖。棋聖戦で井山裕太棋聖を降しタイトルを奪取した新棋聖が、...
2022.02.24 07:59今年の棋王戦金沢対局 今月19日、将棋タイトル戦のひとつ棋王戦コナミグループ杯の挑戦手合渡辺明棋王対永瀬拓矢王座の五番勝負第二局が金沢の北國新聞会館で行われる。トップ棋士同士の対局を身近に楽しめる絶好の機会なので、北國新聞社はじめ地方紙各社、主催者協賛者に感謝しながら、去年はなかった大盤解説会への参加を申し込んだ。 広く知られているようにプロの将棋には八大タイトル戦がある。[竜王戦]、[名人戦・順位戦]、[お~いお茶杯王位戦]、[王座戦]、[棋王戦コナミグループ杯]、[叡王戦]、[ALSOK杯王将戦]、[ヒューリック杯棋聖戦](順序は日本将棋連盟のホームページによる)である。かつて、タイトル戦は七つで、羽生善治九段が独占して大きな話題を呼んだが、新しく叡王戦が加わった。こ...
2022.01.23 15:00富士山の色 新年おめでとうございます。またコロナ感染が全国的に急拡大してきました。感染力の強いオミクロン株の広がりのようで、我が故郷の様子も気になります。ここで、気を引き締め、しっかり対応して、今年をコロナ禍がしっかり克服された明るい一年にしたいと存じております。 さて、新年につき、富士山について語りたい。無数の日本人が富士の絵を描いてきたが、その代表は葛飾北斎である。富岳三十六景を描いた北斎は、広く世に知られている。米国のある雑誌で、この千年間で世界に最も大きな影響を与えた百人に、日本人としてただ一人選ばれている。北斎描く富岳三十六景46枚の富士山のうち、「赤富士」こと「凱風快晴」、「黒富士」こと「山下白雨」、「ウエーブ」こと「神奈川沖浪裏」の三枚は三役と呼ば...
2021.11.23 15:00加賀宝生と綱紀公 今回は、先月の「別冊太陽・金沢・加賀・能登の工芸」の紹介の続きとして、同書に、能楽史研究者西村聡公立小松大学教授が執筆された『「加賀藩の御細工所と「加賀宝生」』について述べたい。この記事は、加賀の能楽に関して、御細工所の人々、すなわち工芸担当者の果たした役割を論じ、この職人達の支援によって前田家5代目綱紀公が宝生重用の道を開かれたことを述べたものと私は理解した。 「加賀宝生」なる言葉は、人口に膾炙している。石川県で謡曲といえば、宝生流である。私は中学生の時、「鞍馬天狗」の小謡を学校の先生に習い、大学生になってから、小松の麦谷萬次郎師から「鶴亀」を口うつしに教えて頂いたが、もちろんいずれも宝生流であった。祖父の謡も宝生、本屋に置いている謡本も宝生だった...
2021.10.27 02:37百工比照の輝き コロナ禍が世を覆う中、過日、石川県人会で活躍された西喬氏と小林好晴氏が逝去された。在りし日の御活動に感謝しつつ、心からご冥福をお祈りする。 10月1日、コロナの非常事態宣言が解除され、心も軽く公立小松大学に出勤したら、「別冊太陽」の「工芸王国・金沢・能登・加賀への旅」という写真本を、執筆者の一人西村聡教授から頂いた。石川県の工芸百般を紹介した本書は、赤や黒や紫の四角い色漆見本の表紙写真が目を引く。これは後述する「百工比照(ひゃっこうひしょう)」の一部である。 目次を追おう。①『加賀百万石が生んだ絢爛たる美術工芸』は、金沢箔・加賀友禅・九谷焼・加賀蒔絵・加賀象眼・金沢仏壇。『茶の湯でもてなす金沢の工芸』は、大樋焼・釜・銅鑼。②『里山の自然が育んだ暮らし...