2024.08.27 15:00浪裏の宇宙 今月始め、飛行機で小松入りしたら、雲の切れ目から見えた白山がとてもきれいだった。白山は、雪を頂いた姿の美しさがその名前の由来だろうが、夏の青い白山は、墓参に帰郷する私に微笑みかけてくるようで、独特の懐かしさを感じてきた。最近は、一年中石川と東京を行き来し、夏にはそれが激しいので、車窓や機窓から青い白山を見る機会は多いのだが、この日は葛飾北斎の富岳三十六景のうち「凱風快晴」赤富士の青摺りのことが胸中をよぎった。この珍しい靑摺り赤富士は、一昨年1月本欄で触れたように、かねて関心をもってきたが、最近、東京墨田区の北斎美術館で種々お話を伺ったからである。 先月この欄でホルスト作曲の組曲「惑星」に新しく「ボイジャー」の楽章を付け演奏したことに関して、太陽圏を脱...
2024.06.23 01:20地震からの復興と郷土訪問 今月3日の朝6時半頃。地震アラートに驚かされ、すぐテレビを点けたら、富山湾が震源の地震の警報だった。スワ能登半島地震の再来かと、不安になって画面を見つめたら、6時31分震度5強の地震が能登半島の珠洲市や輪島市を襲ったことが報じられた。東京では全く振動を感じず、能登や富山での揺れも予知したものほど大きくはなかったようだが、やはり被害はあったと報じられた。1月1日の地震に関連した揺れとのことだったが、ともかく、早くこのように奥能登で地面が動く状況が収まることを祈るばかりである。 今、急がれる能登半島地震からの復興についていは、全国の方々に心を寄せて頂き、応援を受けながら、石川県挙げて懸命に取り組んでいるが、石川県立美術館をはじめ関係機関の協力のもとで前田...
2024.02.23 15:00東京タワーと定式幕 1月1日の能登半島地震では、亡くなられた方、負傷された方は数多く、また不自由な避難生活を余儀なくされている方々も大勢おられる。哀悼の意を表し、お見舞い申し上げる。早くこの地震禍が克服され、能登半島が力強く復興していくことを強く念ずるものである。加賀地方では、能登の支援とともに、自らの被害にも対処しなければならないが、来月の16日には、北陸新幹線の金沢・敦賀間が開業する。小松・加賀温泉・芦原温泉・福井・越前たけふ・敦賀の6駅に待望の新幹線がやってくる。そこで、2月5日の月曜日、北陸新幹線の延伸を広く報ずるとともに、能登半島地震からの復興を祈念して、夕刻から深夜まで、東京タワーを歌舞伎色に輝かせる企画が実施された。世界的照明デザイナーである石井幹子さんの...
2023.10.23 15:00テイカカズラ 9月のある日、県人会の仲間山田外彦さんから牧野記念庭園のパンフレットを頂いた。この庭園は西武池袋線大泉学園駅の近くにある。山田さんは、先々月の本欄「植物と生きる人々」を読み思い立って行ってきたと言われたが、NHK朝ドラ「らんまん」に名残を惜しんでのこととも思われる。同じ時期に私の妻も学生時代の友人で植物に極めて造詣の深い夏目和子さん山崎晃子さん達とこの庭園を訪れたが、その前に彼女達は「ハツユキカズラ」と「テイカカズラ」について情報交換を重ねていた。前者は後者の園芸品種で、いずれも8月に本欄で触れた「ヘクソカズラ」と同じ蔓性の植物、キョウチクトウ科に分類される。「ハツユキ」の方は、私にはあまり蔓性の感じがしない。ちなみに「ヘクソカズラ」はアカネ科だ。5...
2023.09.23 15:00スーパーブルームーン 令和5年8月つまり先月は、満月が2回あった。その2回目は8月30日から31日にかけて見られ、月に2回の満月は「ブルームーン」と呼ばれている。さらに、このタイミングで月が地球に最も近づいていて、満月が最も大きく見える現象「スーパームーン」が重なった。すなわち「スーパーブルームーン」と呼ばれる状態になったのであり、次にこうなるのは、2029年のこととか。それまで生きてはいたいが、なにせ肥満気味の私のことだから、どうなるかは分からない。そこで、今生の思い出と思って、30日の夜、東天に昇った月を見るべく表に出た。 屋根の間から見えるスーパーブルームーンは確かに大きい。今年2月の地球から最も遠かった満月に比較して直径が14%ほど大きく見えるのだとか。ブルームー...
2023.08.23 05:13植物と生きる人々 植物の好きな女性は多い。妻もその一人で、「原色牧野植物大圖鑑」の「合弁花・離弁花編」と「離弁花・単子葉植物編」の分厚い2冊を身辺に置いて、日毎に頁を繰っているが、妻の津田塾大学時代の同期の友人達には、もっともっと本格的に植物を愛好、研究する女性がいる。その一人が夏目和子さん。どんな草花にも深い関心を示し、根っから植物を愛するその姿に、妻は満腔の敬意を表しており、牧野富太郎、今世にあらば、彼女と仕事をしたいと思うに違いないような方である。いま一人は、牧野富太郎と同じ高知出身の立仙美幸さんで、大学寮で妻のルームメート。妻は親友中の親友として、長く付き合ってきたが、誠に残念なことに、16年前に他界された。彼女は、ヘクソカズラなるアカネ科の蔓性植物が、他の植...
2023.07.24 15:00夏のにおい 暑い日が続いている。こんな夏を我々老人が乗り切るには体力が必要だが、年とともにそれが失われつつあるのは、やむを得ないこととはいえ、いささか寂しい。視力、聴力もどんどん劣化している。視力は子供の頃から弱かったが、聴力には自信があった。しかし、今は、老いてなお鋭い音感を持つ妻に遠く及ばず、すぐにテレビの音を大きくしている。 そんな中で、嗅覚は、若い頃とそれほど変わらないと妙な自信を持っている。視覚に関しては、視力検査表で指し示されたカタカナを読み、大小の輪の開き口の方向を告げて、0.6とか0.1とか記録される。聴覚に関しては、イヤホーンを付けて、高さと大きさの違う多くの音を聴取し、結果がすぐグラフ化される。このように定量化されやすい視覚と聴覚に対して、嗅...
2023.06.24 15:00短歌 今月の3日と4日に行われた金沢市の百万石まつりは、絶好の天候に恵まれて、大勢の見物衆は祭りの楽しさを満喫した。この祭りは、10月14日から11月26日まで行われる「いしかわ百万石文化祭2023」(第38回国民文化祭 第23回全国障害者芸術・文化祭)への金沢市の応援事業としても位置づけられており、祭りの賑わいで、今秋の文化祭の豊かな実りを確信した。 百万石文化祭の期間には、石川県実行委員会主催事業として、開会式閉会式をはじめ、リーディング事業や障害者芸術・文化事業が多彩に繰り広げられる。また、市町実行委員会主催事業として、地域文化発信事業と文化団体事業が行われ、他にも特別連携事業や応援事業、協賛事業と多岐にわたって各種の事業が挙行される。私...
2023.04.24 15:00ラオスとカンボジア 思えば、今を去ること約3年半前の2019年11月25日から12月1日まで、我が石川県人会がチェコとオーストリアを訪れたのは、欧州でコロナ禍が勃発する寸前で、少し遅れれば、旅行を断念せざるを得ない状況下にあった。かの旅行は、多くの思い出と高村秀雄さんの奥様がプラハのマサリク駅で駅ピアノを弾かれた音を残して、つつがなく帰国できたことは本当に有り難かったと思っている。高村さんがその後鬼籍に入られたので、思いは一入である。 あの旅行のすぐあとに、私は二度ばかり急ぎの用務で東南アジアを旅したが、直後のコロナ襲来のため、外国には行けず、国内で巣籠もりの日が多くなったのは誰もが同じである。しかし、コロナ禍もようやく下火となって、外国に行きやすくなり、海外に行く用務...
2023.03.24 15:00引っ越し 3月は卒業の月。引っ越しが多い。妻も私もよく見るTBS木曜夜の番組プレバトの俳句の「春光戦」予選のお題は、「卒業」と「引っ越し」と「入学」だった。その予選で、春風亭昇吉師匠が卒業を詠んだ一句「三月の空に託せるものがない」に強く共感した。それぞれの学業を終えて覚える充足感とその反面の未達成感。人生の新たな段階に進む時に心の片隅に宿る覚束なさ。これまでの寄るべであった学校と手を伸ばしても届かない社会の有り姿との間のギャップに直面することを迫られる空しさ。そんな我々が誰しも抱く気持ちを17音で的確に表現している。 今、私はそれに似た気持ちになっている。長年慣れ親しんだビルと別れる時が迫っているのだ。私が役員を務める本田財団の拠点本田八重洲ビルが取り壊される...
2023.02.24 15:00一秒の長さとピサの斜塔 最近、難しいことを書き過ぎると妻に怒られる。本稿もそのクチかもしれないが、どうかお許し頂きたい。 「1秒」は、微妙な長さの時間である。「瞬く(またたく)間の時間」と言いたいが、自分で瞬いて(まばたいて)、時間を計測したら、瞬き2回で0.78秒だった。私の体内で1秒に近いのは、やはり起床直後の脈拍の脈打ちから脈打ちまでの時間である。血圧と脈拍測定で始まる私の一日は、「秒」の刻みの積み上げであるが、世の中、我が脈拍の時間などと違って正確な時間把握が必要な場合は多く、陸上や水泳の短距離競技では、小数点2桁100分の1秒まで記録され、トップ選手たちは1000分の1秒を争っている。 時間の単位は、かつて、地球の自転時間、すなわち一日の長さから決められていたが、...
2022.10.23 15:00形質の継承とメンデル 今年のノーベル生理学・医学賞は、我々ホモ・サピエンスと絶滅したネアンデルタール人との間で交配があり、我々の遺伝子の数パーセントがネアンデルタール人由来であることや、デニソワ人の存在を確認したドイツのスバンテ・ペーボ教授が受賞した。同教授は、前に日本国際賞を受賞しており、同賞を贈呈する国際科学技術財団の関係者の一人として感慨一入である。我々の生命は、遠い先祖から延々と繋がってきたものだ。日曜夜7時半からのNHK番組「ダーウィンが来た」は、およそ生き物は自分の生命を全うし、自分の形質を後世代に繋ぐために全力を尽くしていることを教えてくれる。そのあと8時からの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、源頼朝・政子から頼家・実朝へ、北条時政から義時そして泰時へと資質...